まるで羊水に包まれているような柔らかく滑らかな極上湯
- 所在地
- 鹿児島県出水市武本2060
- 最安値
- 素泊まり2,500円~
- クチコミ よくぞこの建物のままで残ってくれているものだと、時間が止まったかの様にさえ思える風景が、そこにそのままで存在していた。
陰湿と言えばそうかもしれない。暗い森の中にひっそりと佇む上の湯の湯小屋。
隣に建つ、剥げて朽ちかけた鳥居もまだそのまま残っていた。温泉神社がある事を知らせている鳥居だが、怖くて森の中へは進めない。
何十年も前から廃墟となった、温水プールのむごたらしいコンクリートの箱には目を逸らせ、河鹿荘の全貌を眺める。
変わらず現存している湯治館は、灰色の木造となり、褪せたカーテンが窓からのぞいている。
屋根には多数の苔や草までが生え、下の湯の湯小屋の傘電灯が昼間でもぼうーっと燈り、人を迎えているのがかろうじて解る様な雰囲気が。
緑で覆われた一画には、細い小川が流れていた。そうか、此処から河鹿蛙の鳴き声が聞こえてくるのか‥鳥の声の様に鈴の音の様に澄んだ美しい声が、このひっそりとした一画には昼でも響き渡っていた。
下の湯の湯小屋は熊本大水害で流され、新しく造り替えられていた。内部は真新しい白木に、同じく真新しい白木造りの湯船には、澄んだライトグリーンの湯がとても美しかった。
湯船の中には腰かけ部分が設けられ、湯底は玉石に替わっていたが、以前と同じ湯船の片隅から時折プクㇷ゚クと気泡が上がる。そっと優しく時を刻みながら。
昔は上の湯と下の湯では若干湯温も違った様に思っていたが、今回はほぼ同じ様に感じた。
ぬるゆの極みの様な37℃源泉はいつまででも入って居られるし、入っていたい温泉である。秋や春口は上がる際に少し肌寒いそうだが、源泉の加温浴槽が設けられるのは11月~3月の間だけだそうで、訪れた時は空風呂だった。
新しく造り替えられているが、客数の割にシャワーが1基しかないのが不便に感じた。
上の湯の湯小屋と湯舟はそのままで、変わっていたのは湯船の中の男女の仕切り板が下方迄伸び、男性浴室に在った鶴口の様な源泉投入口が無くなっていた。
湯底からの自然湧出のみだが、結構排水溝に湯が溢れて行くので、かなりの量の源泉が湧出されているのだろうと思える。
昔からそのままの建物の湯治館には、褪せ切った提灯がまだそのままぶら下がっていた。台所は流し台とガスコンロ1つだけになり、テーブルや椅子が無くなっており、昔の様な賑わいのかけらは消えていた。トイレは様式トイレ。
経営者が変わり日帰り入浴だけになっていたが、素泊まりを再開したと知り、あの夜の河鹿蛙の鳴き声を聴きたいと宿泊予約を入れたが、残念な事に6月15~7月15迄の一か月間は宿泊営業を休んでいたのだった。水害に備えてとの事だったので致し方なかったが、河鹿蛙は「昼でも鳴いてますよ。もっと早い時期から鳴き、もうそろそろ終わりですよ」との事で、日帰り入浴で訪れてみた。
タイムスリップしたかの様な温泉宿には、河鹿蛙の澄んだ音色が湿気を帯びた森に響き、澄んだ温泉が時を超え待ってくれていた。
アクセス例:鹿児島空港から阿久根行シャトルバスで出水本町下車し、タクシー利用。
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